Hi-MAG北海道・日高の
ウェブマガジン

こんな田舎に3Dプリント建築が!? 前編

突然ですが、3Dプリント建築ってご存知でしょうか?3Dプリント建築とは、コンクリート系材料(モルタル)をロボットアームなどのマシーンを使って積層して作る建築物の事を言います。まだ国内での事例が少ないので実物を見る機会はあまりないかもしれません、そんなTVでしか見ないような3Dプリントで出来た建物が、じつは新冠の山奥にあるんです。なぜ世界の最先端技術である3Dプリント建築が日高の新冠町、それも太陽という山奥に存在するのか?今回は、そんなお話をしたいと思います。

私は日高の中心地、新ひだか町静内で宮大工である祖父が創業した建設業、株式会社伊藤組の三代目です。祖父が建築、父が土木、そして私は建築と土木の両方をフィールドにしています。高校を卒業してすぐに入社し27歳までは主に土木の施工管理を担当していました。ただ、一所懸命に作ったモノの大半がそれまでの努力も空しく地面の下の埋まってしまう事に悲しさを覚え、28歳の時に建築の施工管理資格を取得。高性能住宅や店舗改修などの建築部門に力を入れていく様になりました。

2019年、建築の仕事が順調に伸びていた頃、コロナウィルスが猛威をふるいだしましたが、その頃に始まったのが「ウッドショック」です。コロナや戦争などの影響で、住宅用の輸入木材が全くと言っていいほど日本に入ってこなくなりました。

私が3Dプリント建築に出会うきっかけとなったのも、この「ウッドショック」です。

住宅資材のメインである「木材」が無い。という事ですから私たち建築業者は当然、仕事にはなりません、ですが受注している仕事を完了させて納めなければ、お金というものは入ってきません。つまり、この状態が少し続くだけで従業員に給料が払えなくなり、次の仕事の目処が立たない、といった大問題に発展していく未来が予想されました。

事態に気が付いた世の中の企業達は日本国内で木材の争奪戦をはじめました。大手ゼネコンがその資本力を活かして資材を買い占めるなど、中小企業にはさらに厳しい事態となり、猛烈に上昇した木材の価格は2倍以上に高騰。木材以外の建築資材も軒並み値上げをはじめ、追い打ちをかけるように大工などの職人の確保も難しくなっていきます。労務費単価も1.5~2倍に上がり、建築業界は前代未聞の大問題に直面しました。日経ビジネス (nikkei.com)

いつ落ち着くのかも分からないウッドショック。価格の下落を神に祈っているだけでは問題は解決しません。そこで私は、この価格高騰・資材不足・職人不足の状態からどの様に脱却する事が出来るだろうかと考えました。そして辿り着いたのが3Dプリント建築です。ロボットアーム式の3Dプリンターを導入した地元企業、會澤高圧コンクリート株式会社に問い合わせ、既に深川市の自社敷地内(會澤)にプリントされていた建築物を見学しに行きました。

會澤高圧コンクリート深川工場の3Dプリント製バイオトイレ。これが私の3Dプリント建築との出会いです。

會澤高圧コンクリートは、「コンクリート以外のことはしてはいけない」という會澤家家訓の元、コンクリートに特化したコンクリートのプロ集団。生コンクリート、プレキャスト製品、PCパイルなどの一般的なコンクリートメーカーらしい事業の他にもコンクリート3Dプリントをはじめ自己治癒コンクリートなど様々な革新的な取り組みを行っています。今や札幌、東京をはじめ日本全国に拠点を持つまでに成長された企業ですが、じつは発祥の地は、新ひだか町静内。現社長の會澤祥弘社長の出身も静内です。會澤の歴史や詳細については今後ハイマグでも詳しくお伝えしたいと思っていますが今すぐ知りたい方はコチラから→ コンクリートマテリアルのプロ集団|AIZAWA アイザワ (aizawa-group.co.jp)

コンクリート3Dプリント(以後C3DP)とは、その名の通り、ロボットアーム式やガントリー式などのマシーンで、コンクリート系の材料(モルタルなど)を立体的に積層プリントするという、建築物を「印刷」する技術の事です。

C3DP用の特殊なモルタルは硬化が早く、上の層をプリントする頃には、下の層は加重に耐えるだけの硬さに達していなければなりません。うまくプリントするためには、マシーンの速度やモルタルの水分量、温度管理、遅延材の混入など、様々な工夫とノウハウが必要です。この技術を使って建築物をつくる事のメリットとしては、木材を必要としないこと、大工などの職人の仕事が省略化できること、機械が施工することで24時間以上でも連続で稼働できる、などがあります。また、建築のデザインの自由度も高く、データさえあれば大量に生産することも可能。様々なメリットがあると考えられています。一方で、建築基準法などの法整備がまだ進んでいないといった課題も。そのため、参入する企業がまだ少なく、海外に対して日本が遅れをとっている分野でもあります。ただ、地震大国である日本の建築基準法は世界的に見ても厳しいものです。見方を変えると、その基準をクリアできれば、日本の3Dプリント建築は、海外に比べて必然的に性能が高いモノになるという事になります。現在では大手ゼネコンや住宅メーカーなどは独自に研究を重ね、大学や様々な研究機関と共同で材料の研究や構造の研究などを進める企業もあります、国内で3Dプリント建築が普及するよう各社が情報交換しながら切磋琢磨している状況です。

ただ法改正を待っていても、いつ実現できるようになるのかは分かりません。そこで先ずは建築物として認定されない建物の大きさ(床面積10㎡以下)で実際に作ってみようと私は考え。「グランピングのテントをプリントする」という案を思いつきました。

その頃私たちは新冠にあるディマシオ美術館の館内でレストランの運営をしており、理事長の谷本勲氏から、美術館の敷地の拡大と新規事業について「一緒に何かを始めましょう」と相談を受けていました。あまりにもタイミングが良かったこともあり、私は迷わず「コンクリート3Dプリント製のグランピング事業」についてのプレゼンをすることにしたのです。

後編では、美術館の敷地内に、どのようにして3Dプリント建築のグランピング施設を作ったのかをご紹介していきます。